耐震補強設計
耐震補強計画で提示した複数の補強案の内、条件の最も良い案により耐震補強を行うわけですが、その場合補強部材が建物と一体的に納まるか、補強する前と後では建物の条件がどの様に変わるかなど、細部まで検討し設計しなければなりません。住民の住み易さ、法関係、建物と補強部材の接合部、などが検討項目に挙げられます。また、マンションの管理組合等が発注する施工業者の選定補助も業務内容に入ります。
1)建築
計画修繕と合わせて補強部材の設置にあたり、その箇所の使い勝手やデザインの検討、法令等のチェック、工事中の仮設計画、概算工事費の積算・資金計画の検討を行い、管理組合の意向を踏まえて、詳細図や展開図などの図面や仕様書を作成します。
さらに、行政の耐震助成制度の申請、建築確認申請(※1)、耐震改修計画認定(※2)等の手続きを必要とする場合は、補強箇所に限らず、要求される書類・設計図書の整備・作成を行います。
また、管理組合がスムーズに施工業者を選定できるように、見積のとり方、業者選考の方法について、助言や各種書類案の作成を行う施工業者選定補助業務も行います。
※1 建築確認申請
建築基準法により、一定規模の新築、増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替え、用途変更については、その計画が法に適合していることの確認を建築主事(行政庁)から受けなければなりません。これを確認申請といいます。耐震補強工事の場合、増築、大規模の修繕、大規模の模様替え、用途変更などに該当するケースがあります。
建築確認は、現行法規に照らして不適格部分がないかをチェックするため、既存不適格(建設当時の基準は満たしているが、現行法規を満たさない状態)となっている部分も全て是正することが前提です。
※2 耐震改修計画認定
耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)により定められた制度で、所管行政庁から耐震改修の計画について認定を受けた場合、建築確認を受けたものとみなすことができます。既存不適格や耐火建築物に係る制限の緩和措置により、現行法規との整合性を求めないものとする特例が設けられています。
2)構造
補強計画で大まかな補強部材が決まりますが、建物躯体と補強部材の接合部の設計が必要となります。設計に当たり補強部材性能が十分発揮でき、施工性が良い収まりが要求されます。建物全体の耐震性と建物躯体と補強部材の接合部の連続性を伏図および軸組図に表し、補強部材の詳細を決定し、補強部材の断面および接合部の収まりを詳細図により表現します。
建物全体の耐震診断を行い、耐震補強後の評定を取得します。
補強部材を現状建物に取り付けるための仮設工事、補強部材、補強部材の接合部などの概算見積をし、施工を行う業者選定補助業務を行います。
3)設備
耐震補強エリア内に設備配管などがあれば、その設備をいったん除去しなければなりません。
マンションの改修工事は住みながら工事を行いますが、いざ補強が始まった段階で急遽、断水や停電するようではクレームが殺到し工事が停滞します。
滞りなく耐震補強工事を行うためには、あらかじめ影響が出る設備を明らかにし、設備設計にてライフラインの停止を低減させるための配慮が必要です。
また、行政から助成金を得る場合については、計画する設備工事が助成対象となるか確認する必要があります。
(1)補強材が設備にぶつかる(補強の障害となる)
(2)施工作業時に設備に障害がでる(設備を止められてしまう)
(1)耐震補強が速やかに施工できるよう、設備をあらかじめ移動する
(2)補強や設備の移動に伴い発生する、生活への影響(断水など)を最小限にし、滞りなく耐震補強を完成させる
また、耐震補強工事における設備工事は、配管や機器の移設・切り回し・バイパス措置などがあり、それらについて仕様書・系統図・平面図・立面図・詳細図・撤去図等を作成します。
ところで、「設備をどかして、元に戻して」といった「切り回し」レベルだけの設計では、設備工事そのものに新たな価値は生まれないどころか、部分補修による新たなキズを生むことになります。
耐震補強工事のためだけという受け身の発想から、これを好機と捉え少しでも価値のある改修を描き、結果として建物全体のグレードアップに繋がれば、耐震補強工事は絶好の機会となり得ます。
表4.2.1は「道連れ工事」のパターンを整理してものです。主役はあくまで建物構造躯体の耐震補強工事であることに変わりはありませんが、物件毎にやるべき設備の道連れ改修グレードを考えることは重要です。
表4.2.1.-耐震補強に伴う設備改修設計上の「道連れグレード」
道連れ グレード |
概 要 | 仮設設備 (直接仮設) |
工期分け | 効 果 |
---|---|---|---|---|
MS | 影響設備を補強工事前に完全に移設または除却し、あわせて改善・改良・システム変更なども行う。基本的に仮設は設けない。 | 居住者用の仮設給排水管、電気設備等は基本的に設けない。 | ・工期分け ・先行発注 ・分離発注 が可能 |
・系統変更 ・システム変更 ・改修 ・グレードアップ ・価値向上 |
MA | 影響設備の仮設(一時的なバイパス等)を設けた上で、補強箇所にある影響設備を撤去する。補強工事完了後、同一形態に復旧する。 | 一時的なバイパス等を設ける | 不可 | ・撤去復旧 ・修繕 |
MB | 補強工事前に影響設備を迂回させる(切り回す)それが工事後も本設となる。 設備の位置は、もとの場所から若干移動する。 |
住者用の仮設給排水管、電気設備等は基本的に設けない。 | 不可 | ・切り回し ・移設 |